意識と前頭葉ワーキングメモリからのアプローチ

摘要

意識の哲学的研究の歴史は長いが，その科学的研究の歴史は短い。 短い科学的研究の歴史をさらに絞って，意識研究の最近の動向を認知脳科学の視点から，脳の前頭葉の諸機能とのかかわりのなかで，とくにワーキングメモリ（working memory：作動記憶）を通して概観してみたい。 なぜ前頭葉なのかという点については，意識は前頭葉を認知的に制御する過程で生れるからである。 また，前頭葉は認知や行動をプランし先取りするという意味でワーキングメモリを担っているのに対し，前頭葉以外の頭葉は必ずしもそうではないからである。 ワーキングメモリは思考，学習や自他の認知など多くの高次認知と深くかかわり，また目標志向的である点で意識と共通の特徴をもっている。