ストレスに対する情動的抵抗性の獲得とヒストンァセチル化の機能的連関

摘要

近年の分子生物学的な研究成果の累積により，種々のストレス性精神疾患の病態および治療において，DNAあるいはヒストンなどのクロマチン修飾を中心とした，ェピジュネテイクス制御が重要な役割を担っている ことが明らかにされている，筆者らはこれまでに，急性拘束ストレスを負荷したマウスで認められる情動行動の 低下が，ストレス負荷24時間前に5-HT1A受容体作動薬を投与することで抑制されることを明らかにしている， また，ジーンチップを用いた網羅的遺伝子発現解析では，5-HT1A受容体作動薬を24時間前に投与したマウスの 海馬において，histonedeacetylaselOの遺伝子発現量が減少していることを見いだしている.これらの知見は，5-HT1A受容体刺激によるストレスに対する情動的抵抗性の形成に，ヒストン修飾を基盤としたヱピジエネテイクス 制御が関与している可能性を示唆するものである.本稿では，これらの知見に基づき，筆者らがストレス抵抗性 の形成と海馬ヒス卜ンァセチル化との機能的連関について検証した最近の知見を紹介する.本知見は，ス卜レス への抵抗性や適応能の低下に起因する情動障害の治療に5-HT1A受容体作動薬が有効であること，さらには，クロ マチン修飾がストレス状況下における情動調節に関与する重要なメカニズムであることを示唆するものである.