社会能力の発達過程：脳機能画像法によるアブローチ

摘要

社会能力とは，他人の性質や意図を正確に認知するための情報処理過程と定義され，その発達は，他者 との関係において子どもの示す行動パターン，感情，態度ならびに概念と，それらの経時的な変化として観察さ れるが，その神経基盤および発達期における獲得過程については不明の点が多い.近年，機能的磁気共鳴画像(MM)による非侵襲的脳機能画像の進歩が，ヒト脳の神経活動を観測することを可能にし，社会能力を含む高 次脳機能の解明には欠かせない手段となってきた.本稿では，脳機能画像法の歴史と原理を紹介した後，社会能 力発達の重要な指標である共同注意の神経基盤を2個体同時MRI計測によって明らかにする取り組みについて 紹介し，個体を対象とした従来のイメージング研究から，複数個体間の相互作用の神経基盤を探るという，新た な研究方向を展望する.さらに,自他同一性から自他区別，共感と心の理論の発達を経て向社会行動（利他行為） へ至る，というモデルに基づき社会能力の発達過程を解明する試みにつI、て述べる.特に人間の利他的行為にお いて社会的承認（褒め）が重要であること，そしてそれが基本的報酬や金銭報酬と同様の神経基盤をもつことが 明らかとなった.最後に，ヒ卜の社会能力について物質レベルから行動レベルに至る統合的理解を目指すために， ミクロからマクロレベルに至るまで各階層で進行している神経科学の成果を人文諸科学と結びつけていくことが 重要であること，その結節点としてのイメージング研究の重要性を論ずる.