植物の根に関する研究の課題

摘要

植物の根に関する研究は単に学問的な興味だけでなく，様々な環境問題に対処し，安定的に作物生産を向上させていくという現実的な理由から進展が期待されている．その場合の研究課題は根系を構成している個々の根の問題と，根系全体の問題とに分けて考えることができる．個々の根の問題としては，形態形成学的研究，生長生理学的研究，機能形態学的研究などが重要と考えられる．一方，根系全体に係わる問題を研究していく場合は，根系の形態や機能を定量的に把握するための視点、手法、指標を確立したうえで，フィールドにおける事例研究を地道に積み重ねていく必要がある．また，根系全体を単に平均値としてではなく，「形態や機能が異なる数多くの根が統合されたシステム」として捉えることが望まれる．さらに，ストレス生物学や根圏生態学の視点も取り入れながら，個体全体の生育や収量形成における根系の役割を解明することが，根の研究者に課せられた課題であろう．このような研究を進めるには，従来からの手法を組み合わせて利用するほか，新しい手法を開発、導入することも必要である．とくにフィールドにおける簡便な根系調査法を開発することを含め，研究手法を標準化して普及することができれば，個別のデータを相互に比較することが可能になる．また，これに関連して，根の研究者にとってはネットワークが重要な意味を持ってくる．根に係わる様々な分野間の交流を通して，従来の境界領域を統合した「根学」の確立が大いに期待される．