生殖生長期の異なる生育時期における塩水潅漑によるイネの収量低下

摘要

イネにおいて塩ストレスが収量と収量構成要素に及ぼす影響が生育段階によって異なるのは，体内ナトリウム（Na）およびカリウム（K）含有率と関係があるかどうかを明らかにしようとした．耐塩性品種Kala－Rata 1-24（KR1）と塩感受性品種IR28を供試し，生殖生長期の異なる生育時期に塩水潅漑（100mM塩化ナトリウム）を1週間行い，生育，収量および収量構成要素，器官のNaおよびK含有率を測定した．精粗重は塩水濯漑によって幼穂発育初期および登熟期では変わらなかったものの，穂ばらみ期では大きく減少した．この減少は，KR1では枚数と1籾重が，IR28では登熱歩合と1籾重が低下したためだった．1粗重の低下は籾殻の生長が抑制されたためだった．茎葉部のNa含有率およびK／Na比は精粗重の減少と対応していなかったものの，K含有率の低い植物で，精籾重の減少および籾殻の縮小がみられた．穂ばらみ期の塩水港漑によって体内K含有率が低下したのに対して，K／Na比は低下しなかった．したがってK含有率の低下は，Naイオンとの競合によるものではなく，根におけるKイオン吸収が塩水漕漑によって阻害されたことによるものと考えられた．以上のことから，穂ばらみ期のイネに塩水港漑を行うことによって収量が最も大きく減少したのは，植物のNaイオン吸収が増加したためではなく，主に根からのKイオン吸収が大きく抑制されたことによると推察された．