農業柽営者の育成システム一ドイツの農業職業教育から学ぶー

摘要

農業を志してから就農するまで、それからさらに農業経営者になるまでの間に営農に必要な能力を身に付けるにはどのような教育が必要であろうか。この問いに答えるのは、簡単ではない。農業経営者に必要な能力を抽象的に羅列できても、具体的にどのような手順でどのように身に付けていくかは、正解が用意されているわけではない。従来、農業に関わる職業教育については、農業高校や農業大学校など教育機関に注目した議論が多かつた。しかし、教育を受ける側からみれば、ひとつの教育機関ですべてが学べるわけではない。就農あるいは農業経営者になるまでの過程を一連の教育のプ口セスとして捉えることが重要となる。つまり、農業という職業で求められる能力をどのような手順でどのように身に付けていくかという全体の枠組みが明確になつ.ている必要がある。各教育機関は、そのなかでそれぞれ位置づけられるのである。そうした観点から日本の農業職業教育を改めてみると、全体的な枠組つまり農業経営者の育成システムが未確立であることに気づく。高い柽営者能力を備えた農業者を層として持続的に保持するには、社会的な育成の仕組みがどうしても必要となる。また、農業の担い手が多様化し、営農開始に至るキャリアパスも多様となつた現代においては、それぞれの教育歴ゃキャリアに応じた教育を提供できる仕組みが求められる。このように農業経営者育成の仕組みの必要性は高まつても、そのための具体的方法や体制づくりは明確になっていない。これまで存在しなかったものをこれからつくる場合に、すでにそれをもつている海外の例を参照することは有意義である。そこで本稿では、ドイツの農業職業教育をみることによって、農業経営者を育成するためにいかなるシステムが必要かを考えることにしたい。