なぜ冷夏でイネが「いもち病」にかかりやすくなるのか冷畺によるいもち病被害拡大を防ぐ技術に向けて

摘要

いもち病は，イネの病気で最も被害が大きいため昔から恐れられてきた.糸状菌に属するいもち病菌[Magna-porthe oryzae)が主因であるが，冷夏などの環境条件が 被害を大きくすることが知られている.植物が病気と戦 う力を活性化する薬剤である抵抗性誘導剤が開発され て，昔に比べると被害は軽減されつつある.しかし，冷 夏の低温条件下では抵抗性誘導剤が効きにくくなること から，現在でも冷夏の年にはいもち病被害が問題にな る.この問題には，植物ホルモンのアブシジン酸 (ABA)が関与し("，ABAがイネ本来の耐病性機構であ るサリチル酸シグナル伝達を抑制するためであることが 明らかになった0.サリチル酸シグナル伝達は，ベンゾ チアジアゾール（BTH)などの抵抗性誘導剤の作用点 でもあり，常温でBTHを処理したイネでは，いもち病 菌の増殖が百分の一程度に抑えられる(气ところが ABAが共存すると，BTHの効果が打ち消され，無処理 の場合と同じようにいもち病にかかりやすくなつた|3). また，BTH処理を低温（昼15°C，夜9°C)で行った場合 にも，無処理やBTH+ABAと同様，いもち病の程度が ひどくなつた(3).これは，BTHによるサリチル酸経路 の活性化を介したいもち病抵抗性の誘導が，低温によつ て生じたABAシグナルによつて抑制されたからである.イネのサリチル酸経路では，転写因子のWRKY45が 重要な役割を担っている(45|.最近，BTHによって耐病 性が誘導されるとき，WRKY45がMAPキナーゼによつ てリン酸化されて活性化することがわかった(6)(図1). またWRKY45をリン酸化するMAPキナーゼは，ABAが