マキャベリアン、インテリジェンス--社会的知能仮説をめぐって--

摘要

ヒトのみならず霊長類一般の知能の進化を考えたとき，その原動力となったのはどのような要因であろうか．高度な知能は社会においてうまくふるまい，自分や血縁者の適応度を上げるためにあるのではないか，そのようにして進化した知能が，やがて抽象的な思考に使われるようになったのではないかという考えが「社会的知能仮説」と呼ばれるものである．社会的知能仮説は従来の道具使用や食物獲得を知能の進化要因とする説への対立仮説として提唱され，霊長類の大脳新皮質割合と集団サイズのあいだに相関があるといった証拠などから支持されている．仮説として充分に検討されていないという批判もみられるが，この考えはさまざまな分野に影響を及ぼしている．例えばヒトの言語理解には，相手の意図の読み取りという問題が深くかかわってくる．そこにはある種の社会的知能が要求されることから，社会的知能はヒト言語の進化にも大きく影響していると考えられる．