原発事故警戒区域^に取り残された牛のその後 - 旧警戒区域内における放牧地および放牧牛の放射性物質汚染状況

摘要

東日本大震災後の福島第一原子力発電所（原 発）事故は、周辺地域の人たちの生活の基盤を 奪ったばかりではなく、そこに飼育されていた家畜の命も奪った。原発から半径20km圏の旧警戒区域には、震災前には牛3,500頭、馬28頭、豚3万頭、鶏675,000羽がいたと報道された。このうち馬は特例で警戒区域から出されたが、鶏および繫留されたままの牛や豚はすべて餓死し、3月上旬では野山の自生野草も少なく、放れ牛、放れ豚の餓死も相次ぎ、震災の2力月後には推定生存頭数が、牛1,300頭、豚200頭に減少したと報道された。言い換えれば牛2,200頭と豚29,700頭は餓死したものと推定された。飼養者が畜舎に戻れない状況の中、農水省は動物の餓死を防ぐために2011年5月、「警戒区域内の家畜の取扱について」により、警戒区域 外への牛ゃ啄の移動禁止と所有者の同意を得た上での安楽死処分等の方針を示し、それに基 づいて放れ牛や放れ豚の捕獲と安楽死処分が 行われた。しかし放れ牛や放れ豚は自然繁殖 を繰り返し、2013年3月に研究会所属農家の牛 280頭を検査したところ、雌172頭のうち63頭 が妊娠しており、震災後生まれの牛も少なくとも 95頭存在していた。これ以前に死亡した牛も多 数おり、実際の震災後生まれの牛の数は把握で きず、さらに豚はイノシシと交配して猪豚が一気 に増殖した。最後の放れ牛が捕獲された2014年1月には、 牛の安楽死処分の頭数は1,694頭となり、継続飼養頭数は推定700頭。原発事故からその時ま での飢餓や怪我、疾病などによる総死亡頭数 は把握されていないが、震災前の飼育頭数から 生き残つていた700頭を差し引いた2,800頭に、 震災後生まれを加えた推定3,500頭程度と思わ れる。現在、旧警戒区域内における牛の継続 飼養頭数はおよそ600頭程度である。