『肛門疾患 解剖から手術まで』

摘要

肛門疾患では痔核?痔瘻?裂肛の頻度が高いが，いずれもQOL低下に直結し，複雑?難治なもの は排便機能を著しく損なう.また肛門周囲には難 治性の皮膚感染症が多く，さらに炎症性腸疾患? ステロイドホルモン療法や白血病治療などの際に も肛門病変を高頻度に合併する.このように肛門 疾患は多種?多彩かつ重要で，多くの診療科に とっても無縁ではない.しかし"肛門科"以外の医師は肛門疾患に直接 携わることを敬遠しがちである.そのうえわが国 では肛門を不浄とみなす慣習があって，肛門科の 医師が少ないのみならず，一握りの専門家のなか で専ら経験のみで治療法が一種の"秘技"として 伝承されてきた歴史的背景などから，基礎医学に 裏打ちされた科学的視点から病態を理解し診断?治療をめざす努力がこの領域に導入されたのは，僅か約半世紀前に過ぎない.