ホルミシス応答による心筋保護

摘要

われわれは心理的重圧，精神的動揺，過度の肉体的負担など，さまざまなストレスに囲まれて生活している.過度なストレスは病気の原因となる.'摱性ストレスは動脈硬化を進め，そこへ急性ストレスが加わるとプラークの破綻から心筋梗塞を引き起こし，突然死の原因となる.反対に適度なストレッサーは健康を増進することが知られている.たとえば，適度なカロリ一制限や運動は冠動脈疾患，高血圧，糖尿病，癌の発症を抑制し，加齢に伴う認知機能低下を遅延させる効果をもつ.このようにストレッサーに対する生体の用量反応関係(dose-respone)は二方向性で，ストレツサ一が軽度である場合は生存に有利に働くための分子や代謝経路を選択的に活性化させて健康を増進する方向に作用するのに対して，ストレッサー力《過度になると早期老化や臓器障害の原因となる.このような二方向性の用量反応関係のことを"ホルミシス"とよぶ.最近では，とくに低用量のストレスのもつ健康増進·疾病抑制効果に注目が集まっている.本稿ではホルミシス応答による心筋保護について，著者らの最近の研究成果を解説する.