イオン液体と触媒

摘要

イオン液体が反応媒体とする合成反応が注目を浴びるようになってまだ日が浅いが，多種多様な触媒反応が報告されている．本稿では，筆者が独断と偏見で選んだごくわずかな例を紹介したが，イオン液体の面白さはご理解していただけると思う．なお，筆者の研究室ではイオン液体を再生処理して常に再利用している．学生が誤ってこぼしたり，反応処理で目減りしていくが，イミダゾリウム塩は再生して何回も利用でき，筆者の研究室には7年物の「ビンテージ」イオン液体もある．ただし，鉄塩などの反応をイミグゾリウム塩中で行った場合は，すぐに再生処理しないとイミグゾリウム環が壊れてくるので注意がいる．将来，本格的にイオン液体を使う合成反応が企業ベースで展開されるようになると，再生処理方法の検討が重要な課題になると予想される．イオン液体中の有機合成反応の開発競争は一段落して，現在は次のステップのための沈静期に入ったようだが，ノウハウが必要な分野でもあり，いまから参入しても将来リーダーシップを取れる可能性はまだ十分にある．特こ，無機化合物の合成や，生体触媒分野では今後の発展余地が大きい。 揮発しない溶媒，大気中に拡散することがなく難燃性の溶媒という特徴だけでも，ハロアルカンなどの従来の有機溶媒の代替溶媒としての意義も大きく，イオン液体は新しい触媒反応の場と反応試剤との両面で大きな発展性を持っているのは間違いがないであろう．