慢性心不全の病態と治療

摘要

米国をはじめとする先進国で，心血管系疾患の中で唯一罹患率が増加しているのが心不全と考えられている．米国では500万人の心不全患者がいて，毎年50万人が初めて心不全と診断され，30万人が心不全を直接，あるいは2次的原因として死亡し，死亡者数は年々増加しているとされている．同時に，心不全は高齢者病であり，高齢者社会の到来とともに多くの問題が顕在化するとの指摘もある．心不全疫学研究の進展が急務とされる所以でもある．ポストーゲノム時代を迎え，それぞれの遺伝子あるいは蛋白の機能，さらにはそれらが組み合わさって全体としてどのような形態と機能を発揮するかについて検討作業が進められてきた．しかし，分子生物学，遺伝子工学に基づいた生体情報をシステムとして理解することは重要なことであり，遺伝子レベルでの解析が可能となってきたものの，当初想像していた以上にその機能との関連は複雑であることも解ってきた．本講演では，このような現状を踏まえ，個別化医療の必要性に言及し，今後の心不全研究の方向性について考察したい．