【亜鉛代謝障害と慢性肝疾患】

摘要

微量元素である亜鉛は，生体内では約300の酵素の構造維持や活性に関わる重要な働きをしている。亜鉛の重要性は，その欠乏により成長障害や皮膚障害を起こすことが以前より知られていたが，最近，亜鉛欠乏が慢性肝疾患，特に肝硬変の病態に関与していることが明らかになってきている。肝硬変では，亜鉛の消化管からの吸収低下や尿中排泄増加が見られ，また浮腫や腹水の治療に用いられる利尿剤によっても亜鉛欠乏が促進される。亜鉛は，アンモニア代謝で重要な働きをしている尿素回路やグルタミン合成系の酵素の補酵素であることや，線維化の酵素であるリジルオキシダーゼを阻害することより，亜鉛欠乏は，アンモニア代謝障害や肝の線維化を促進してしまう。亜鉛は，多くの機能との関与が指摘されているため，その補充療法の効果も期待されており，その一つとしてアンモニア代謝を改善させることによる窒素代謝改善効果が指摘されている。