神奈川県丹沢山地におけるシカ問題の歴史と森林保全対策

摘要

現在は森林がもっとも発達した時代である（太田　2004;中村　2011)ものの，林内に入ってみると林床植生の少ない森林が多いことに気づく。一般にはスギ·ヒノキの人工林なら手入れ不足の森林や，広葉樹の自然林なら立木密度の高い若齢段階で林床植生が少ない場合がある。しかし，現実には大径木からなる成熟した自然林でも林床植生の少ない森林が各地にある。こうした林内の状況は，近年全国的に問題となっているシカの高密度化による場合が多いだろう。シカは草食獣のため，シカの生息空間である地上高2mの範囲内の植物に影響を及ぼしている。シカの高密度状態が長期間続くと，林床を覆っていたササ類の衰退や樹木稚樹の更新阻害，多年生草本の減少といつた影響が生じる。また，林冠を構成する高木をシカが樹皮剝ぎすることで，林分構造を急激に変えることもある。