なぞ解き山の自然学—山の不思議を発見し，自然の「つながり」を解明する

摘要

私は山好きが高じて，山の自然を生涯調べることになった元若手の研究者です。ただテーマは山の地形とか植物とかいった個別のテーマではなぐ一貫して山の自然全体でした。最初の研究は「高山帯の景色はなぜこんなに多様で美しいのだろうか」というものです。森林限界を越えると，景色は急に美しくなります。そこには氷河地形があり，岩峰や岩塊地•砂礫地があり，残雪があり，ハイマッ低木林やさまざまな種類のお花畑があります。私はこの多彩な風景がなぜできたのかを修士論文のテーマにしたのですが，何を調べたいのかわからないと評判が悪く，もっと小さなテーマに絞れとさんざん言われました。最終的には冬の世界一の強風と世界有数の多雪が原因で，細かい起伏に応じた積雪分布が生じ，それが多様な植生や残雪，微地形の分布をもたらすことを説明し，何とか修了して別の大学の博士課程に進学したのですが，そこでも「君は学部時代によほど勉強しなかったのだろうなあ。普通は修士課程に入る前に専門分野を決めてくるもんだ。まあ一人くらい変なのがいてもいいかもしれないが」と言われてしまいました。