正倉院の古楽：天平琵琶譜を復元琵琶で弾く

摘要

毎年秋になると正倉 院展が奈良国立博物 館で開催されます。聖武天皇(701〜756年） の遺品を光明皇后 （701-760年)が寄贈した物品を始めとし，様々なも のが収蔵されている正倉院宝物から出品されます。 また数ある宝物の中から一部分が選ばれるため， 年によって出品される品々は変化します。正倉院 宝物には，歴史の教科書にも登場するほど有名な 螺鈿紫檀五絃琵琶や，他にも数多くの絃楽器•管 楽器•打楽器も含まれています。絃楽器だけでも 正倉院には箜篌というハープ系の楽器が2張，げんかん四絃の琵琶が5面，五絃の琵琶が1面，阮咸が2 面，の他に琴の系統の楽器も複数収蔵されています。今年(2017年)の正倉院展では漆槽箜篌が23年 振りに出品されます。四絃の琵琶こそ後に雅楽に 取り入れられて今日まで類似した楽器が受け継がれていますが，他の絃楽器には大宝律令(701年)や， 楽制改革(840年頃以降）と呼ばれることになるムーブメントを経た，雅楽の形成•成立の過程で実用 の楽器から省かれてしまったものも多くありま す'。具体的にどのような音楽がどのように奏で られていたのかは，そう多くはない資料から推測 するしかない部分もあるのですが，興味と想像を かき立てられます。私は西洋の様々な時代のギタ 一系の楽器を演奏するとともに，正倉院の四絃と五絃の復元琵琶の演奏に15年ほど携わっており， 最古の琵琶譜とされる天平琵琶譜ゃ，20世紀後 半の国立劇場における伶楽運動で培われた，一柳 慧ゃ石井眞木など現代の作曲家による現代の曲を「正倉院の響き（創造する伝統実行委員会)」というレクチヤ一コンサ一トを中心とした企画で演奏 しています。琵琶独奏の曲もあれば，箜篌， 方響と呼ばれる金属打楽器，排蕭と呼ばれる 管楽器など，正倉院の他の復元楽器とのアンサン ブル曲もあります。正倉院の楽器はその歴史的-美術的価値が注目されやすいのですが，楽器とし ての機能も洗練されたものが多く.また今日の復 元楽器のレベルも向上しています。