非定常横揺れ時の減衰力に関する研究: ビルジキール成分の履歴影響

摘要

船舶の設計段階において，横揺れを正確に推定することは，安全性を確保する上で重要である.横揺れの推定には，対象とする現象に合った運動方程式の選定と運動方程式中流体力係数の精度良い推定が重要であるが，粘性成分の割合が大きい横揺れ減衰力係数を精度良く推定することは難しい.横揺れ減衰力係数推定法の一つに池田らの方法がある.これは，横揺れ減衰力を成分(摩擦，造波，造渦，揚力，ビルジキール等付加物)に分けて推定し，これらを足し合わせる方法であり，各成分は理論に基づく定式化と実験に基づく修正係数で構成されている.しカゝし，この方法は周期的横揺れの減衰力を推定するものであり，この推定結果を過渡的あるいは非周期的な横揺れ(ブローチング，不規則波中での横揺れ等)の時系列計算にそのまま用いるには次の問題がある.一つ目は，ビルジキールの抗カ係数が定常振動時のものであることである.片山らの実験から，時間領域の抗カ係数は定常振動時のものと異なることが示されている(過渡影響と呼ぶ).二つ目は，前の揺れでビルジキールから放出された渦が現在の揺れで造られる渦の大きさに及ぼす影響が考慮されていないことである.池田らの実験によって，不規則振動する平板の抗力係数は，一揺れ前の振幅が現在の揺れの振幅より大きいときは定常振動時の抗カ係数より大きく，一揺れ前の振幅が現在の振幅よりも小さいときは定常振動時の抗力係数より小さくなることが示されている(履歴影響と呼ぶ).