ウイリアム・モリスの制作論における「手工芸」の問題アーツ・アンド・クラフツ運動の背景的思想として

摘要

1．はじめにウイリアム・モリス（William Morris，1834・1896）は工芸家として実践を横んだ後，1877年に公開講演活動を開始し，その中で「民衆の芸術」を基軸とした制作論を表明するようになる。前橋注1）では，「民衆の芸術」を家や庭という生活環境についての制作者および生活者の問題として論じた。初期の講演を収録した『芸術の希望と不安』では，家や庭に関する言及は主として都市郊外における中産階級の日常生活を対象としている。しかし，モリスは1883年に社会主義者を自認し，芸術の正しい在り方を労働者階級の生活を含めた社会構造の変革の中に模索するようになる。かれは，社会主義機関紙『ジャスティス』に寄稿したり，自身も「社会主義同盟」を結成し，機関紙『コモンウイール』を創刊するなど1880年代の革命的社会主義運動の中心にいた注2）。モリスは，このような社会主義の実践と並行してアーツ・アンド・クラフツ展覧会に関与している。%The intention of this paper is to make a thematic explication of William Morris's theory of creation through inquiring into his concept of "handicraft". In 1880s Morris played an active part as a socialist as well as a craftsman. From an ethical point of view, he insisted that methods of handicraft would bring double pleasure of lovely surroundings and happy work to workmen. Chapter 2 illustrates the characteristics of Morris's statements in 1880s. In Chapter 3, the meaning of production by methods of handicraft is analyzed. In Chapter 4, the relation of methods of handicraft and lovely surroundings is analyzed.