水を楽しむ

摘要

覗き込んだスコープに浮かぶ赤い輝点を、前回のずれから計算して標的のやや左上に合わせる。輝点は呼吸と筋肉の微細な動きに合わせて細かに揺れる。緩やかに長く息を吐き、身体が静止した瞬間、トリガーに掛けた人差し指を絞る。右肩に着けた銃床を通じて前身に強い衝撃が伝わる。発砲音が荒野に木霊し、やや遅れてひと際高い金属音が800m先に設置された標的から届く。隣に立つ、観測員を務めてくれるガイドの「ヒット」の言葉を待つまでもなく、放った銃弾が的を捉えたことを確信する。そしてまた、息を吐き、身体を宥め、トリガーを引く、という動作を繰り返す。