特異値分解を用いたゴルファーのスイング分析

摘要

ゴルフの競技人口は国内では約500万人を超えるといわれ，幅広い年齢層のゴルファーが競技を楽しんでいる．この競技の特徴は，スイング動作という身体とゴルフクラブ（以後クラブ）を調和させた，しなやかなダイナミクスが存在することである．このダイナミクスを巧みに操ることで，ゴルフボールを遠くに，精確に飛ばすことが可能となる．それら競技能力を向上させるために，ゴルファーは個々のスイングに適したクラブを選定することが求められる(Betzler, et al., 2012, MacKenzie and Springs, 2010)．ゴルファーが使用するクラブのうち，ドライバーに注目すると，ゴルフボールをより遠く，精確に飛ばすため，ドライバーのヘッド部分は「高反発」，「体積の上昇」という進化を遂げてきた．しかし，近年ヘッドの体積規定に加え，フェース面の反発係数に制限が設けられたため，ヘッド部分によるクラブの差別化が困難になりつつある．そこで，メーカーの対応としてシャフトのラインナップを増やし，個人に合ったシャフトを提供している．その手法の一つとして，「データベースフィッティング」が確立された．データベースフィッティングとは，適正シャフト診断の精度を高めるため，グリップエンドにセンサを装着してスイングを計測し，ゴルファーのスイングを分析することで，データベースの中から適正なシャフトを推奨するという手法である．将来的には，データベース上には存在しない，ゴルファーのスイングに剛性分布を合わせたシャフト（オーダーメイド製のシャフト）を提供したいと考えている．そのためには，ラインナップに存在しないシャフトを使用した時のシャフト挙動を，シミュレーションにより再現する必要がある．そこで，著者らは，シャフト挙動を再現するため，有限要素法のオイラー・ベルヌーイ梁要素によりシャフトをモデル化し，このモデルにスイング中の慣性力を入力し，シャフトの変形挙動を再現した(Matsumoto, et al., 2015, 2016,松本他，2016)．しかし，このシミュレーションモデルを用いて，実際にスイングしたことのないクラブでの変形挙動を再現するためには，クラブ特性の変化に応じたスイングの変化状態を把握する必要がある．このスイングの変化を評価するシミュレーションモデルを構築することで，様々な特性のクラブ使用時のヒトとクラブを組み合わせた設計が可能となる.