海軍航空技術廠（帝國海軍の科学技術の背景と戦後社会への貢献）

摘要

海軍航空廠（以下、航空廠）は1932（昭和7）年に制定された海軍航空廠令 1）により設置された．横須賀軍港に置かれ、廠長は横須賀鎮守府司令長官に隷し、技術上のことは海軍航空本部長又は海軍艦政本部長の区処の下、航空兵器に関する技術研究機関として機能した．アジア太平洋戦争（以下、太平洋戦争）の開戦の兆しが見えてきた1939（昭和14）年3月の改正で、航空廠から「海軍航空技術廠」（以下、空技廠）と名称が変わった．しかしこの改正では、特に所掌についての変更はないことから、技術開発を強調した名称の変更であると思われる．開戦の年、1941（昭和16）年9月に新たに別の組織として「海軍航空廠」（以下、航空廠）が設置された．この航空廠は、先に設置された技術研究機関としてのそれではなく、航空兵器及び其の材料の造修、購買、準備、保管、供給を掌る工廠（工場）であり、第一、第二などの番号を付した複数の箇所に設置するとされている．まさに臨戦態勢を見越して、技術研究と製造・修理の二元体制の構築を図ったものであると言えよう．敗戦が濃厚となった1945（昭和20）年2月、空技廠令が全部改正され、名称が「海軍技術廠」（以下、技術廠）と改められた．技術廠は、第一と第二に分けられ、第一技術廠は、横須賀鎮守府所属として航空兵器に関する事項、第二技術廠は、海軍航空本部所属として波動兵器に関する事項をそれぞれ所掌した．二つに分けられた技術廠も3か月後の5月に横須賀鎮守府所属に一本化している。そのまま終戦を迎え、11月30日に海軍艦政本部、海軍技術研究所、海軍航空本部、航空廠と共に廃止された．