術具による脳組織圧排に伴う損傷を回避する深部病変部への最適手術経路計画

摘要

近年の医療技術，科学技術の発達により様々な手術支援システムが開発されている．難易度が高いとされる脳神経外科分野においても様々な手術手技や手術支援技術が開発され，手術の安全性や，患者のQOL (Quality Of Life) が向上してきた．しかし，多くの手術手技において，合理的な手術を遂行するためには病変部を処置するための手術経路の検討が必要である．これまでの手術経路は，MRI（Magnetic Resonance Imaging）などの断面画像やそれから復元された三次元統合画像をもとに病変部の位置や大きさを確認し，医師の経験等により検討されてきた．近年，手術経路の新しい検討材料として計算機によって自動生成された手術経路が注目されている．Fujii らは脳組織を損傷した際のリスクを部位ごとに設定し，任意の頭表位置から病変へリスクが低くなる経路の自動生成を行い，また，生成された手術経路の類似性から脳裂を経由した経路の優位性について示した．Shamir らは，断面画像から取得した脳や主要な血管を考慮し，重要な血管から距離をとった鍵穴手術用の手術経路の自動生成を行っている．しかし，これらの研究では手術中の脳べらによる圧排などの脳の変形が考慮されていない．組織の変形を考慮した例として，Rilk らが機能的内視鏡下副鼻腔手術において術具と鼻腔組織の接触に伴う反力を考慮して経路計画を行っている．しかし，組織に発生する応力とそれに伴う損傷については言及していない．病変に接近し，処置する際に伴う脳の変形と発生する負荷を考慮することで，より安全な手術経路の自動生成が期待できる．そこで，本研究では変形に伴う脳の損傷を考慮した手術経路の生成手法について提案する．本稿では，有限要素法（FEM: Finite Element Method）と最適化手法を組み合わせた手術経路生成生成システムについて提案し，単純な形状の有限要素モデルに対する手術経路生成の結果について報告する．