速度制御された液滴接触により形成される脂質二重膜の評価

摘要

細胞膜は主にリン脂質二重膜と膜タンパク質で構成され，シグナル伝達やエネルギー生成などの複雑な反応系において重要な役割を担っている．リン脂質二重膜は人工的に再構成することが可能であり，単一の膜タンパク質の素反応を解析するための人工モデル膜として用いられる．平面人工脂質二重膜は液滴接触法（Fig. 1a）を用いることで簡便に作製することが可能であるが，真核細胞の細胞膜環境を模倣するにはリン脂質非対称組成を有したモデル膜を高効率に作製する必要がある．我々は先行研究において，平面リン脂質膜を繰り返し作製できる手法(droplet split-and-contact method)を開発した．この手法を用いると，デバイスの回転動作のみで複数の平面脂質二重膜を同時に作製することができる（Fig. 1b）．接触させる液滴に用いる緩衝溶液や脂質組成を変えることで，1つのデバイスで様々な組み合わせの脂質二重膜を作製できることも実証されている．しかし，液滴の回転動作は手作業で行われているため，回転が膜形成に与える影響を定量的に評価することは難しく，膜形成の効率にも限度が存在した．そこで我々は，”droplet split-and-contact method”の回転動作にコンピュータによって制御されたステッピングモータを用いることで，デバイスの回転動作パラメータが膜形成に与える影響を定量的に評価した．定量評価によって導かれた回転動作パラメータをステッピングモータに設定すれば，再現性?安定性の高い人工脂質二重膜が自動的かつ高効率に作製できると期待される．本発表では，自動化によって明らかとなった回転速度と脂質二重膜形成の関係を紹介する．