「中国全国重点文物保護単位」に指定されたイスラーム建築の概況

摘要

中国におけるイスラームは唐代より千年以上にわたり、中華思想が支配する社会のなかで独自の文化を形成しながらその地位と信仰を堅持してきた。そのような文化的軌跡をたどるには清真寺や墓廟などの歴史的建造物、古書籍や古工芸品などの所蔵文物を丹念に検証することが不可欠である。国家レベルでの文化財保存対象である「全国重点文物保護単位」は「国家級文物保護単位」ともいい、遺跡や石窟寺院、古建築物など複数の遺構を包含した複合体あるいは領域全体をまとめて1件とする場合が多い。1961年より2006年まで6回にわたり指定された全国重点文物保護単位は合計2351件で、そのうちイスラーム建築はわずか25件にすぎない。それを一覧化して示したのが表1である。最初の年である1961年に1件、その後25年以上まったく指定実績はなく、1988年に一挙に7件指定される。その後、8年の空白をおいて1996年に1件、5年後の2001年に6件、さらに2006年に10件と、やや波はあるものの、少ないながらも着実に指定件数を増やしている。このように外来のイスラームとその文化に対して、国家政策として多少とも理解されつつあることは注目される。