ハーバート・バイヤーの書籍デザインと展示デザインに関する研究:「視野のダイアグラム」の概念の形成と展開について

摘要

第一次大戦後、ワイマールの造形美術アカデミーと工芸学校の併合により設立されたバウハウスの運動は、後の建築界における国際様式運動の呼び水となった。中世ギルド的な表現主義者のサロンの創設に始まるこの運動体は、工業と芸術の工芸的美学による統一の称揚を経て、社会主義的な生産組織へと転じていく。激しい変化を遂げた当時の社会情勢に適応するための一連の流れのなかで、彼らのデザインは、視覚的な統一を重視することで、社会の変化に耐え得る強度を保持していた。「バウハウス様式」とも呼ばれる彼らのデザインの成立過程を知る為に、バウハウスの各人の思想的影響関係を確かめる必要がある。その端緒として、初期のバウハウスで学び、その生産活動に与し、離脱・亡命を経た後もグロピウスと共に活動し、視覚表現の開拓者として日本のデザイン界にも多大な影響をもたらしたハーバート・バイヤーの作品から、バウハウスのデザインの精度を分析する。具体的には、1930年にバイヤーが描いた「視野のダイアグラム」に着目する。対象の配置とそれを観察する者のまなざしの関係を表すこの図は、これまで主に展示デザイン分析の文脈のみで言及されてきた。しかし、まなざす者とまなざされる対象との関係は、展示デザインのみならずバイヤーの他領域に関わる作品の主題にもなっている。本研究では、「視野のダイアグラム」に示される展示デザインの原則をまず明らかにし、他の表現領域の中でも特に、視野と対象の関係に最も注意が払われる書籍デザインとの近接について調べ、「視野のダイアグラム」に通じるデザインの原則を抽出することを目的とする。