動体追跡陽子線治療システムの開発・臨床応用・今後の展望

摘要

北大陽子線治療センターは、世界のトップを目指した先端的研究推進のための「最先端研究開発支援プログラム」（2009～2013 年度）の支援による研究開発を経て、2014 年3 月に治療が開始された。最大の特徴は、本学で1999 年に開発され、以来20 年以上の臨床実績を有する動体追跡技術と、日立製作所が商用陽子線治療装置として世界で初めて実現したスポットスキャニング技術の融合である。システム外観をFig. 1 に示す。スキャニング照射法は、走査電磁石による平面方向への陽子ビームのスキャンと、シンクロトロンからの出射エネルギーの変更による深部方向のブラッグピーク位置調整により、腫瘍の三次元形状に合致した照射野形成を可能にする技術である。しかし、呼吸性移動等を伴う部位におけるスキャニング照射では、動的なビーム送達と標的の動きの相互作用、いわゆるinterplay effect により標的線量の均一性および集中性が低下するとう課題があった。そのため、我々は、腫瘍あるいはその近傍に留置された金マーカーの三次元位置を二方向からのX 線透視によりリアルタイムに認識する動体追跡技術を（Fig. 2）融合させることで、interplay effect を低減した高精度な治療を実現した。現在、肺、肝臓、膵臓、および前立腺の症例に対して動体追跡技術を適用しており、約半数の患者に対して本技術が用いられている。