オットー･ヴァーグナーの建築論における自然概念ゼムパー被覆論の建築史的諸展開について 1

摘要

オットー･ヴァーグナー(1841-1918) が『近代建築』(1895) で主張した目的･材料･構造を基盤とする近代的建築観が、『様式論』(1860-67)等で展開されたゴットフリート･ゼムパー(1803-1879) の建築理論に導かれてのものであったことは広く知られている。すでに示したように、ゼムパーは、ギリシア建築に即して、芸術的建築活動をふたつの段階で捉えていた。技術に即した実用的な形態化の段階と、それによって生じる形式を、被覆の象徴作用によって自然を原型とする有機的な形式へと変容させると同時に精神化する、いわば芸術化の段階である。ヴァーグナーは、こうしたゼムパー理論における象徴の扱いを批判しながら[WM:99-100]、その理論をいかに展開して芸術的建築活動を捉え直したのか。本報ではこれを、「自然」概念に着目して論じてみたい。