ウェルビーイング・コンピューティングと身体性からのアプローチ

摘要

本稿では，講演の前提として，ウェルビーイングの捉え方やそのコンピューティング（働きかけ）のために配慮すべきことについて，その視点を共有する．人間の生存戦略は，強靭な身体を持つことでも，新しい生存領域を開拓することでもない．道具をつくり出す知性と，複数の人間によって物事を成す社会性ではないだろうか．道具は，近年のAIやVRといった情報通信技術の発展にあるように，人間の身体的・知的能力を飛躍的に増大させた．一方で，社会性についてはどうであろう．社会性とは何か，多様な解釈があるが，ウェルビーイングの議論と関連するものとして，自律性・自己同一性を有する異なる個人が集まり，道徳的実践を行う能力と考える．自分で判断する複数の個人で構成され，それぞれを尊重し，手段として扱わない集団という意味である．このような社会においては，私たちは「概念」を共有することで，意思疎通や合意形成を行い，生活を営hでいる．ウェルビーイング（Wellbeing）もまたギリシャ時代から議論されてきた概念であり，ウェルビーイング・コンピューティングを考えるにあたっては，現代社会の日本に適した形の概念として更新していく必要がある．