ベクションの正史を作る試み

摘要

視野の広域な部分において、一様に動く視覚刺激が提示されると、観察者は錯覚的に自己身体の移動を感じる。この視覚による錯覚的な移動感覚のことをべクションと呼ぶ(e.g. Brandt et al., 1973; Review, Palmisano et al., 2015；日本語では、中村，2006;妹尾，2009;妹尾，2018)。1970年代から実験心理学、知覚心理学において、ベクションは重要なトピックの一つとして、多くの実験?研究がなされて来た。一方で、これまでべクションの歴史や古典についてまとめてある科学論文は十分ではなく、学術的な歴史についての研究論文はあるのだが、学術的なアプローチをする以前のべクションはどのようなものがあつたのか、どhなところで体験できたのかについて、総合的にまとめられた総説論文はこれまで存在していない。そのため、ベクションの正史と呼べるものを作り、その歴史を集約させることには心理学の研究として大きな価値があった。さらに近年のVR技術の発展で、ベクションの需要が大幅に増大する中で、ベタションを体系的に知りたいという需要も高まり、その歴史をまとめることには大きな価値が出て来ている。そこで、本論文では19世紀以降のベクションに関する歴史的事実を拾い集め、ベクションの正史を作成することを試みた。