ル・コルビュジエの東方への旅における「窓」Voyage d'Orient Carnets(1911)とLe Voyage d'Orient(1966)の比較

摘要

ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887-1964)は自著のなかで「窓の歴史は建築の歴史だ、少なくとも建築史の特徴的断面をなしているといってもよかろう」1)と記し、建築の歴史は「窓」の物語としても語ることができると示唆している。つまり、ル・コルビュジエは「窓」を建築における重要な主題と位置づけている。筆者らは、ル・コルビュジエが建築制作において、壁に依存する前近代的性格をもつ窓と、壁に依存しない近代的性格をもつ窓の双方を肯定的に使用していたことを明らかにしている[1]。しかし、近代主義建築の理論は、ー般的に前近代にあたる過去の伝統や歴史を否定することによって成立すると考えられているため、背理が発生する。この背理は何を意味するのか。その内実を解明するためには、ル・コルビュジエの前近代的性格をもつ窓における主題を明らかにする必要があると考えられる。そこで、本稿ではル・コルビュジエが前近代の建築を学ぶことを目的とした1911 年「東方への旅」(Voyage d’Orient) に着目する。そして、旅の中でル・コルビュジエがどのように前近代的性格をもつ窓を捉えていたのかを考察する。