旧一条恵観山荘茶屋に対する近代数寄者の関心

摘要

旧一条恵観山荘茶屋は、近代になってから一部の数寄者の間で存在が知られ、「百姓屋」、「田舎家」と表現された。このことは、大きな草葺きの屋根の下に下屋、縁側のある外観と、建具を払えば連続した大広間となる可変的な平面の大らかさが、民家に通じ、近代数寄者らの「田舎家」と共通する要素を見出したからに他ならない。つまり、数寄者らが関心を寄せていた種類の茶の空間が、既に江戸初期の公卿の別荘に存在したことに力を得て、そこに自らの理想を重ね合わせたと見ることができよう。広大な別荘内に営まれた茶屋は、同様に広大な敷地内で「田舎家」を茶の空間としたような、近代数寄者の自由闊達な茶風にも通じるところがあろう。数寄者らの「田舎家」への関心が、一般的な茶室とは異なる、この建築が保存されることになった一因とも考えることができる。